しばらく待っていると、歯科衛生士さんが、戻って来られました。
金属製の小さなちりとりみたいな器の上に、ピンクの柔らかそうなものが乗っているのを手に持っています。
ピンクのものが落ちてきたようで、指ですくって直しています。
「マウスピースの型取りをします。上からしますね。」
「はい。」
ちりとりみたいなのを私の口に入れようとしましたが、大きすぎて全く入りません。
衛生士さんは私から離れて、型取りの大きさを調整しているようです。
衛生士さんが、戻って来られました。
「失礼します。」
普通に口を開けては入らないため、口を横に広がるようにしてみましたが、入りません。
衛生士さんは、型取りの調整に行き、戻って来られました。
「失礼します。」
型取りのため、何度も私の口の中に入れようとしています。
私の口に指を入れて、口を広げて押し込むようにしてみますが、どうやっても入りません。
ピンクの物が、私の口についたようで、指で拭われました。
衛生士さんは、また、型取りの幅を調整して来られました。
「こういう感じにしてもらえますか。」
私は衛生士さんの真似をして、口角を上げるようにして、口を大きく開けました。
「そのままにしていてください。」
型取りの片方の端を私の口の中に入れ、もう片方も入れようと、私の口を指で広げて何度も押し込みましたが、上手く入りません。
また、調整して来られ、やっと入りました。
私の上の歯に押さえるようにしましたが、すぐに引き出されました。
私の歯に、合わなかったようです。
更に調整して、私の口の中に入れ、上の歯に押し付けられました。
冷たい! 痛っ!
口をゆすぐ水は人肌ですので、しみませんが、型取りは冷たくて、歯にしみます。
拷問かと思うくらいです。
口を開け続けているのも大変ですが、とにかく歯が痛くて、早く終わって欲しいと思いました。
3分くらいしてから、衛生士さんが、型取りのピンクの部分を触っていました。
まだ固まっていないようで、そのままになりました。
更に3分くらい経過後、衛生士さんが、型取りのピンクのところをつつくように触っていました。
固まったようで、私の口から外そうとしましたが、すぐには外れそうにありません。
引っ張られて、削られた歯が抜けるのではないかと思いました。
水が出る機械で、湿られてから、少しずつ外して行かれました。
型取りが、口から外されました。
「お口をゆすいでください。」
「はい。」
口の周りに、ついているので、手で取ると、ピンクのゴムみたいなのがついてきました。
紙コップを手に取り、口をゆすぎました。
ピンクの物が、たくさん口についていて、コップに入っていた水を全て使いました。
これで帰宅できると思いました。
斜め後ろを見ると、衛生士さんが、今、取ったばかりの私の歯型を院長先生に見せています。
衛生士さんが、戻って来られました。
手に、歯の型取りするのを持っています。
「もう1回、取らせてください。」
「……。」
私の口に押し込むようにして、1回で入りました。
衛生士さんは、型取りを私の口の上に押しつけました。
冷たい! 温めるわけに行かないの?
痛い……。
とても痛くて、どうして、こんな思いをしなくてはいけないのかと思いました。
型取りは、私の体温で多少は温まってきますが、温かくなるわけではないので、痛いのは変わりません。
削られた歯に、舌で軽く触れても痛いのに、衛生士さんが、手で押していますから、すごく痛いです。
マウスピースなんて、初めから欲しくありませんでした。
営業先から勧められたから、歯科医院の経営のために作ることに同意しただけです。
早く、この状態から抜け出したいと思いました。
衛生士さんは時々、型取りを触って、固まっているかどうかチェックしています。
1回目よりも長時間、痛みに耐えなくてはいけませんでした。
やっと固まったようで、水の出る機械で、私の口を濡らしてから、型取りを外しました。
1回目よりは、外すのは楽でしたが、削られた歯が引っ張られる感じがして、嫌でした。
衛生士さんが、型取りを持って行きました。
口をゆすいでから、斜め後ろを見ると、院長先生と歯科衛生士さんが、話をしています。
型が上手く取れて、これで終われますように。
そう祈りました。
歯科衛生士さんが、マウスピースの型取りを持って、私のところへ来られました。
もう一度、上の歯の型取りをしました。