奥さんの代わりに、歯科衛生士さんが来られました。
「どの歯がザラザラしていますか?」
「削っていただいた歯、全部です。」
「磨いていきますね。」
「いえ。歯が削れるのが気になりますので……。」
「磨きます。」
「……。」
「お口を開けてください。」
「……。」
衛生士さんは、にこやかに言いました。
私は、口を開けたくありませんでしたが、仕方がなく開けました。
衛生士さんが、私の口の中に、機械を入れました。
聴覚障害者のため、音はわかりませんでしたが、ゴリゴリというような嫌な振動が伝わりました。
奥さんのときは、歯に振動がありましたが、ゴリゴリはしませんでした。
「どうですか?」
「ザラザラしています。」
「磨きますね。」
「歯が削られるのが気になります。」
「磨きます。お口を開けてください。」
「……。」
歯科衛生士さんは、私が口を開けるのを笑顔で待っています。
私は、口を開けました。
歯科衛生士さんは、丁寧に私の歯を磨いてくださいました。
ゴリゴリという振動が、繰り返し伝わりました。
「どうですか?」
「ザラザラしていますが、歯が削られるのが気になりますので。」
「お口を開けてください。」
「……。」
私が口を開けると、歯科衛生士さんは、私の歯の裏側をさわっておられました。
そして、機械で歯を磨き、歯の裏側をさわってから、磨くのを何度か繰り返しました。
そんなことをしても、歯が削られるだけで、ザラザラが治るはずがありません。
歯を削らなければ、ザラザラすることもなかったのです。
繰り返し磨かれていると、歯が窪んだことに気がつきました。
私は、慌てて言いました。
「ザラザラが治りました。」
歯科衛生士さんは、私の歯を削るのを止めました。
「お口をゆすいでください。」
「はい。」
私は、口をゆすぎました。
また、自分の歯を排水口へ流してしまいました。
削られた歯は、ザラザラしたままでした。