はははのはのおはなし

私の歯を勝手に削ったのは、逮捕されて無罪になった歯科医ではありませんが、無罪になったニュース記事を引用したところ刑事告訴され、刑事さんから取り調べを受けました。その記事は地方法務局を通じて、1年以上前に見られないようにされておりますが、その歯科医は私に対して、非常に強い処罰意志と逮捕を望んでおられるとのことです。

勝手に歯を削られたのは、削ることを磨くと言われたから。

奥さんの代わりに、歯科衛生士さんが来られました。

 

「どの歯がザラザラしていますか?」

「削っていただいた歯、全部です。」

「磨いていきますね。」

「いえ。歯が削れるのが気になりますので……。」

「磨きます。」

「……。」

「お口を開けてください。」

「……。」

 

衛生士さんは、にこやかに言いました。

私は、口を開けたくありませんでしたが、仕方がなく開けました。

衛生士さんが、私の口の中に、機械を入れました。

聴覚障害者のため、音はわかりませんでしたが、ゴリゴリというような嫌な振動が伝わりました。

奥さんのときは、歯に振動がありましたが、ゴリゴリはしませんでした。

 

「どうですか?」

「ザラザラしています。」

「磨きますね。」

「歯が削られるのが気になります。」

「磨きます。お口を開けてください。」

「……。」

 

歯科衛生士さんは、私が口を開けるのを笑顔で待っています。

私は、口を開けました。

歯科衛生士さんは、丁寧に私の歯を磨いてくださいました。

ゴリゴリという振動が、繰り返し伝わりました。

 

「どうですか?」

「ザラザラしていますが、歯が削られるのが気になりますので。」

「お口を開けてください。」

「……。」

 

私が口を開けると、歯科衛生士さんは、私の歯の裏側をさわっておられました。

そして、機械で歯を磨き、歯の裏側をさわってから、磨くのを何度か繰り返しました。

そんなことをしても、歯が削られるだけで、ザラザラが治るはずがありません。

歯を削らなければ、ザラザラすることもなかったのです。

 

繰り返し磨かれていると、歯が窪んだことに気がつきました。

私は、慌てて言いました。

 

「ザラザラが治りました。」

 

歯科衛生士さんは、私の歯を削るのを止めました。

 

「お口をゆすいでください。」

「はい。」

 

私は、口をゆすぎました。

また、自分の歯を排水口へ流してしまいました。

削られた歯は、ザラザラしたままでした。