『盛り上がっているところを削って行きます。少し振動があります。止めて欲しい時は、左手を上げてください。』
「はい。左手ですね。眼鏡は右手に持ちます。」
『遠慮しないで、手を上げてくださいね。』
「はい。ありがとうございます。」
眼鏡は、診察台の上に置くように指示されていましたが、メモを見る度に体を起こして、眼鏡を取るのが面倒なので、手に持っていました。
勝手に私の歯を削った歯科では、痛かったら言ってくださいとか、手を上げてくださいとかは、一切ありませんでした。
治療中に痛くて、止めて欲しかったことがありますが、治療が終わるまで我慢しました。
『椅子を倒します。』
「はい。」
椅子が倒されると、目にタオルがかけられました。
明るくなったので、タオル越しにもライトがついたのがわかりました。
軽くアゴに手がかけられましたので、口を開けました。
機械が前歯に当てられたようで、振動が伝わってきます。
強めの按摩器というか、振動が我慢できなくて、2回使っただけの電動歯ブラシに似た感じです。
嫌な感じはしますが、左手を上げるだけで止めてくれると思うと、少し安心できました。
振動が治まり、タオルが除けられ、メモが差し出されました。
『噛んでください。』
「はい。」
口の前に差し出された赤い紙を噛みました。
衛生士さんが、私の口の中を見て、軽くうなずきました。
『削ります。』
「はい。」
目にタオルがかけられ、口を開けると、振動が伝わってきます。
また赤い紙を噛むように指示されました。
今度は、繰り返し噛みました。
その後、削りました。
また、赤い紙を噛みました。
衛生士さんは、ゴム手袋をつけた手で、削ったところを指で触れています。
少しだけ削りました。
『高いところや、気になるところはありませんか?』
私は舌で、削った歯をなぞりました。
歯の表面はザラザラしていますが、カーブしていて、勝手に削られる前と同じ感じになりました。
「いえ、ありません。とてもお上手ですね。」
衛生士さんが、微笑みました。
『椅子を起こします。口をゆすいでください。』
「はい。」
椅子が起こされましたので、口をゆすぎました。