「歯の詰め物を取り替えますね。」
「はい。お願いします。」
勝手に削られた後、何度も断ったのに、磨くと称して、引っ込む程、削られてしまった前歯の詰め物を取り替えて貰うようにお願いしました。
椅子を倒され、顔にタオルがかけられました。
ライトや詰め物の破片が、目に入らないためだと思います。
しかし、見えないと、余計に怖いです。
余計なことをされるのではないかと、とても不安でした。
タオルを取って欲しいと、お願いしようかとも思いました。
そこのルールがありますので、我慢することにしました。
『口を開けてください。削ります。』
「はい。」
タオルを少しめくって、メモを見せられました。
私は、口を開けました。
器具があてられ、前歯の詰め物が削れられました。
余分なところまで、削られているのではないかと不安でいっぱいでした。
タオルが除けられました。
『椅子を起こします。口をゆすいでください。』
「はい。」
舌で、削られた場所をなぞると、詰め物の部分しか削られていないことがわかり、ホッとしました。
以前、勝手に削った歯科で、同じ歯の詰め物を取り替えていただいたことがあるのですが、必要以上に削られて、悲しい気持ちになった覚えがあります。
口をゆすいで、ティシュペーパーで口元を拭きました。
「削ったところに、詰め物をします。」
「はい。」
「その後、噛み合わせを診て削ります。」
「はい。」
「じゃあ。」
「ありがとうございました。」
先生が去って行き、歯科衛生士さんに処置してもらうことになりました。
『これから歯に、詰めて行きます。椅子を倒します。』
「はい。」
椅子が倒されて、少し待ちました。
『口を開けてください。』
「はい。」
削られた前歯に、少し暖かい物が入れられ、銀色のスティックで詰められて行きました。
舌で触れると、盛り上がっていました。
『噛んでください。』
「はい。」
ピンセットにつままれた赤い紙が、口の前に差し出されました。
私は口を開けて、その紙が口の中に入れられると、何度か噛みました。
勝手に私の歯を削った歯科医も、赤い紙を私に噛ませました。
赤い紙を噛ませるということは、削るということなのでしょう。
歯科では常識なのかもしれませんが、私は、そのことに気が付きませんでした。
一言、削るという言葉が欲しかったです。