名前を呼ばれたので、診察室へ入りました。
朝から落ち着かなくて、歯科へ行くのだと思うだけでドキドキして、とても緊張していましたが、診察の椅子に座ると、更に緊張しました。
できれば、このまま帰りたいです。
「こんにちは。よろしくお願いします。」
「こんにちは。」
先生がいらっしゃいましたので、挨拶しました。
緊張と言いますか、怖くて、手が震えました。
マスクをしておられましたが、歯科衛生士さんが、私の手紙を見せて説明されると、マスクを外してくださいました。
多分、私が聴覚障害者だということを先生に、伝えてくださったのだと思います。
先生が、手紙を読まれている間も、怖くて怖くて、どうしようかと思いました。
「診察しないなんてことはありませんよ。診ますからね。安心してください。歯がしみるのですね。どの歯がしみるのですか?」
「この歯と、こことここです。」
私は、しみる歯を指差しました。
「ここですね。レントゲンで、歯の状態を確認しますね。」
「はい。」
「全体と、この歯の拡大写真を撮ります。」
この歯というのは、内側に生えている歯のことです。
衛生士さんに案内されて、レントゲン室へ行きました。
撮影後、診察台の椅子に座って待っていると、目の前の診察台のテレビに、私のレントゲン写真が表示されました。
先生がいらして、説明してくださいました。
「画面のレントゲン写真を見てくださいますか。」
「レントゲンを見てしまうと、先生のお話がわかりません。私は、聴覚障害者なのです。」
「あぁ、そうですか。では、こちらを向いて、レントゲンを見ながら、ご説明します。」
「はい。」
「白く映っているのが、治療して被せ物や詰め物をした部分です。歯の中心の黒い部分が神経になります。炎症もないようですし、そのままで大丈夫です。」
「神経を抜かなくても、よいのですか?」
「抜かなくても、大丈夫です。」
「よかった。とても、しみるので、抜かないとならないのかと思いました。」
「どのような感じですか?」
「削られた歯が空気にもしみて、話をするもの嫌な感じです。削られた直後は、舌で歯に触れることもできませんでしたが、しみ止めが効いたようで、舌で歯に触れることができるようになりました。」
「神経が、縮んだのかもしれません。」
「神経は、縮むのですか?」
「はい。どの歯が一番、しみますか?」
「今は、この歯です。」
私は、上の前歯2番目の歯を指しました。
この歯は、内側に生えています。
先生は、指示棒で画面を指し、口話と筆談で説明してくださいました。
先生が、マウスを使って、拡大写真を画面に表示させました。
「この歯ですね。歯を抜くのは、怖いですか?」
「歯は、抜きません!」
虫歯でもない歯をどうして抜こうとするのでしょうか?
恐怖と疑問を感じました。
「そうですか。マウスピースを作成したとありますが、今、お持ちですか?」
「いいえ、私の手元にはありません。削られて、舌で歯に触れることもできなくなりなりましたので、使えないと思いました。それで、私は重度障害者なので、医療費は初診料のみなのですが、見本として使えそうでしたら、使ってくださいと言いましたので、実物も見ておりません。」
「そうですか……。噛みしめに、マウスピースね。」
先生は、何か考えておられるようでした。