どのくらい時間が経ったのかわかりませんが、奥さまが来られました。
私のそばで、ボードに挟んでいる紙に書き、それを私に見せてくれました。
『削ったと言っても、ほんの少しだけです。それで、食事が取れなくなるほど、しみることがありません。というのが、院長の見解です。』
「本当に、しみるのです。削られた歯に、舌で触れることもできません。こうやって話をしていても、歯がスースーして、とても嫌で、話をしたくありません。」
奥さまならば、わかってくださるのではないかと思い、空気にしみるのも我慢して、必死に状態を訴えました。
奥さまは私の側を一旦離れましたが、また書いてくださいました。
『他の患者さんは、もっとたくさん削っていますが、しみることはありませんでした。治療によっては、健康な歯を削ることは、よくあります。この間も、削ったのが目に見えるほど、たくさん削りましたが、何ともありませんでした。少ししか削っていませんので、しみるはずはありません。』
「他の患者さんのことはわかりませんが、本当にしみるのです。」
歯が涼しすぎて、口を開けるのも嫌なのに、何度も同じようなことを説明していますので、泣きたくなりました。
奥さまは、また私の側を離れて、戻って来られてから書き始めました。
『ザラザラした歯を磨いて、歯が窪むこともあり得ません。』
「本当に、窪んでいるのです。」
『歯の表面を磨いただけで、窪むほど削れることはありません。』
「この歯は、神経を抜いているのですが、詰め物削られて、歯の表面が大きく窪んだのがわかったので、ザラザラしていましたが、よくなったと嘘を言って、削るのを止めてもらいました。」
奥さまは無言で、私から離れましたが、少しして戻って来られました。
手に、歯の模型を持っています。
それを見せながら、説明してくださいました。
「前歯の裏側は、窪んでいるのが普通です。このように、カーブになっていて、窪んでいます。」
「この歯は、神経を抜いていて、詰め物がされています。確かに、他の前歯は、窪んだ感じになっていますが、詰め物をされているために、他の歯と違い、表面が平らになっていました。それが、削られたことによって、大きく窪んでしまいました。」
『磨いて、窪むほど削られるようなことはありませんが、絶対にないとは言えません。』
奥さまは、また私の側を離れました。
戻って来られると、こう書きました。
『少し削っただけで、食事を取れなくなるなんて、普通・・・・・・?』
私が、普通ではないと言いたいのでしょうか?