髪を整えて、診察台の椅子に座って待っていると、院長先生が来られました。
「こんにちは。お久しぶりです。いつもお世話になっております。」
「こんにちは。」
院長先生は立ったまま、診察台の横に置いてあるカルテをご覧になられました。
私は、だぼっとした丈の長い、水色の診察衣を着ている先生を見ました。
見ないうちに年を取って、太ったみたい。
お腹が出て、中年太りだわ。
以前は、スマートだったのに。
頭は薄くないので、年齢を考えたら、まあまあかな。
奥さんも、妊娠したのかなと思うくらいお腹が出ているから、二人でおいしい物をたくさん食べているのでしょう。
奥さんは、私よりも年上だと思うので、妊娠ではないよね。
院長先生は50代、奥さまは先生よりは若いと思いますが、40代後半でしょう。
美人ではありませんが、愛嬌のあるかわいい感じです。
その奥さんが、小走りで来られました。
「虫歯ゼロです。」
奥さんは私に向かって、右手でOKサインをしてくれました。
「よかった。しみる感じが続いているのですが、虫歯ではないのですね。」
「どこですか?」
「この歯です。」
私が、左上の前歯を指差すと、院長先生は、その場でチラッとご覧になられました。
「噛み合わせが、悪いのでしょう。」
「噛み合わせが悪いのですか? 抜くのは嫌です!」
私は、院長先生から少しでも離れるように、背もたれに思い切り寄りかかりました。
以前、通った時に、この歯を抜くことを勧められたことを思い出したのです。
「抜きませんよ。診察を受けるのは7年ぶりですね。」
「そんなになりますか?」
「そこまでは来ていたのに。」
院長先生は、診察室のドアを指差しました。
私が待合室まで、来ていたことを言っているのだと思います。
「待合室までは、いつでも来られますが、診察室には入りたくありません。歯医者さんは、嫌いなのです。」
私が断言すると、院長先生と奥さんが困ったように、笑っておられました。