「ザラザラしている歯を磨きます。」
そう言って、院長先生は去って行かれました。
奥さんと目が合うと、ちょっと困った感じの顔をして、一瞬目を反らされました。
「起こします。」
奥さんから言われて、椅子が起こされました。
「お口をゆすいでください。」
私は、くまモンの紙コップを手に取りました。
紙コップを持った手が、かすかに震えているのがわかりました。
舌で削られた歯に触れると、ザラザラして嫌な感じがします。
歯を削られたくないのに、削られてしまって、泣きたくなりました。
水を口に含みましたが、自分の歯だと思うと、吐き出したくありませんでしたが、そういう訳にもいきませんので、吐き出しました。
吐き出した水は、排水口に入って行きます。
いつもは、2回ゆすぎますが、1回だけにしました。
紙コップを戻すと、吐き出したところに水が流れ、台をきれいにします。
目には見えませんが、私の歯が排水口に入って行く様子を見るのは、本当に悲しかったです。
「ザラザラしている歯を磨きますね。倒します。」
椅子が倒されましたが、口を開けたくなかったです。
家に帰りたいと思いました。
しかし、仕事の事を考えて、仕方がなく口を開けました。
奥さんは、削られた歯に器具を軽く当てました。
「どうですか?」
「ザラザラしています。」
再び、歯を磨くと称して削られました。
「どうですか?」
「ザラザラしています。」
自分の歯なのに、ザラザラしすぎて、触れたくないです。
削られてから痛い気がするのは、気のせいではないと思います。
奥さんが、私から離れました。